♪ 柱のきずは おととしの 五月五日の 背比べ
                  ちまき食べ食べ 兄さんが 測ってくれた背の丈
                   きのう比べりゃ 何のこと やっと羽織の 紐の丈 ♪

 なつかしい童謡がよみがえってくる五月の連休に、背の高さを測って成長を祝うご家庭もあったでしょう。お子さんだけでなく、家族そろって身長を測ったかもしれません。ひょっとしたらペットも一緒に。
 ペットもと言ったのは、家族構成が話題となる時、数年前から犬君や猫君も含めて紹介する塾生が増えてきたからです。最近はペットブームとも言われて、ペットを家族の一員と考える割合は今後ますます増えそうです。 ペットも含めて背比べしようとすると、人間は立ったまま、ペットは四つ足のままとなります。もし人間もペットと同じ条件で背を比べるならば、人間が四つん這いになってペットと同じかっこうになるか、ペットが後ろ足で立って人間と同じかっこうになる必要があります。
 視点をちょっと変えると、今までとは別の背比べができるかもしれません。

 たとえば、川の背比べをしてみます。
 日本で一番長い川は信濃川、二番目は利根川、三番目は石狩川です。ただし、これは現在の順位です。過去になると順位が入れ替わります。
 明治時代に戻れば、第一位は石狩川でした。石狩川の名は、イシカリベツというアイヌ語が由来です。「曲がりくねった川」という意味の通り、石狩平野を激しく蛇行して流れていました。当然、川は氾濫をくり返し、大きな被害を出します。そこでなるべく直線で流れるように流路を変更し、100qも短くしました。
 江戸時代に戻れば、利根川は東京湾に流れ込み、現在よりもずいぶん短い川でした。洪水対策のため河口を銚子につけ変えた結果、流路が延び、現在の第二位に躍進しました。

 世界で一番長い川はナイル川、第二位はアマゾン川、第三位は長江、第四位はミシシッピー川です。
 この順位も現在形であり、過去に遡れば、ミシシッピー川が世界一長い時代もありました。その違いは、流路の変更でなく、源流域の探検が進んだり、いくつかの支流のうちどれを本流にするかの判定の変更によります。
 「エジプトはナイルの賜物」と古くから言われてきたにもかかわらず、ナイル川の源流がどこなのかは有史以来の謎とされてきました。
 ようやく18世紀になって、エチオピアのタナ湖が源であると判明しました。タナ湖から流れ下る青ナイル川の水量は、合流する白ナイル川の水量よりも二倍も豊かでしたから、青ナイル川がナイル川の本流であると思われていました。
 その後も調査が進み、19世紀になって、ケニアやタンザニアの国境に位置するビクトリア湖が、白ナイル川の源であると突きとめられました。白ナイル川の長さは、青ナイル川の長さの1.5倍にもなります。
 本流と支流の区別を、水量の多さで決めるか、流路の長さで決めるかの論争の結果、それまで支流とされてきた白ナイル川が本流となり、ナイル川が世界で一番長いと認定されたのでした。

 さて、山の背比べはどうでしょう。地殻の変動や測量技術の進歩によって、数センチないし数メートルの違いが絶えず生ずるのは言うまでもありませんが、基準が変われば高さの順位は激変します。
 山の高さは、従来「標高」として表します。「標高」は、海面から測った高さです。日本の場合は、東京湾の平均海面が基準です。「平均」ということからわかるように、海面は一定していません。時間的にも変動しますし、場所によってずいぶん高低差があります。
 「グローバル化社会」と言われる現代にあって、高さを測る基準海面が異なるのはいかがなものかという声がでてきました。さらに、海面を基準にするよりも、全地球的な絶対基準を決めるべきだという声もあがりました。
 そうこうする中で採用されたのが、「地心距離」です。「地心距離」とは、海面からではなく、地球の中心からどれだけ離れているかを測った長さです。この地心距離を用いれば、山はもちろん、平地も、海面も、海底も、世界中で統一された高さを示すことができます。

 「地心距離」によって山の高さを測定すると、世界で一番高いのはチンボラソ(エクアドル)、二番目はワスカラン(ペルー)、三番目はイェルバハ(ペルー)となります。『中学校社会科地図』に、チンボラソとワスカランは載っていますが、イェルバハは見あたりません。いずれにしても、私達に馴染みの薄い山が上位を占めているのには驚かされます。
 「標高」では世界一だったはずのエベレスト(イギリス名、チベット名でチョモランマ、ネパール名ではサガルマータ「世界の頂上」の意味)は、ベスト10にも、ベスト20にも、入っていません。ようやく32番目に顔を出します。
 チンボラソとエベレストの順位の差もさることながら、2200mもの高さの差がつくのは、地球が文字通りの球ではないからです。地球は、赤道付近で張り出し、両極付近がしぼんだような楕円体をしています。赤道の海面までの「地心距離」は6378q北極の海面までの「地心距離」は6357qと、20q以上も差がひらいています。そのため、赤道に近い所ほど「地心距離」が増し、高くなります。

 「地心距離」で測った結果、「標高」で測る順位と違って、世界の山の背比べが激変したなら、日本の山の背比べも激変するにちがいありません。
 富士山が日本一でなくなるだろうとは、想像されたでしょう。では、富士山に代って、日本で一番高い所はどこになるのでしょう。
 赤道に近い方が高くなるなら、富士山よりも南にあるはずです。四国にある山でしょうか。九州にある山でしょうか。
 残念ながら、いずれでもありません。そもそも、山ではありません。
 「え、富士山より高い所が、山でないって!」
 「日本で一番高い所は、一体どこだ!」
 そうです。日本で一番赤道に近い所です。沖ノ鳥島です。
 沖ノ鳥島は、「標高」でいえば0m。海面から没して広大な経済水域が消滅することを恐れた日本政府が、巨費を投じて、島の周りにコンクリートの防波堤を築いた、日本で最南端の島です。その沖ノ鳥島が、富士山よりも760mも高い、日本最高地点にあたります。

             ♪ 柱にもたれりゃ すぐ見える 遠いお山も 背比べ
                 雲の上まで 顔出して てんでに背伸び していても
                  雪の帽子を ぬいでさえ 一はやっぱり 富士の山 ♪

背比べ