9月の初旬に雷雨が続きました。特に3日から4日にかけての落雷はこれまでに経験したことがないほどの地響きを伴ったこともあり、数日の間、雷が塾生との間で話題になりました。
 これまでならば雷は一過性のものと済まされてきましたが、今回はそうもいきませんでした。

 雷の正体が電気であることは、かなり古くから知られていたようです。
 今から250年ほど前には、フランクリンが雷雨の中で凧をあげ、そのことを証明しています。ただし、雷雨の中で凧をあげることは非常に危険であり、この実験は無謀とも言えるものでした。
 雷雲と地表との間の電圧は、数千万から数億ボルトです。しかも、1回の落雷がもたらす電気量は、数百キロワット時です。これは、各家庭で使用する一ヶ月間の電気量を上回ります。
 これほど大量の電気が瞬間的に流れると、電気が流れる経路にあたる空気の湿度は、数万度にもなります。この高温が、空気中の窒素や酸素の分子を原子に変え、強力な光を発します。同時にこの高温は、空気を膨張させ、大きな音も発生させます。

 それでは、雷の正体である電気とはどのようにしてできるのでしょう。
 下敷きを擦ると静電気ができます。規模は比較にならないものの、雷の電気もこの静電気と似たような原理でつくりだされます。
 地表が温められると、上昇気流がさかんになり、積乱雲が発達します。
 地表から5キロメートルぐらいの積乱雲の中では、雨粒ができます。それより高度が高く、温度が零度を下回る積乱雲の中では、あられやひょうのような氷の粒ができます。この氷の粒がはげしくぶつかり合う過程で、摩擦電気が生じるわけです。
 積乱雲の中で蓄積された電気量が巨大になり、上に述べたような大きな電圧が地表との間に生じると、通常では絶縁体である空気が、電気の流れる状態に変化します。
 そこで、雲から地表に向かって電気が流れていきます。落雷の速度は、1秒間に150キロメートルというものすごさです。数万分の1秒で、雷は雲から地表に到達します。

 ところで、雷が発生しそうな積乱雲を見分けることはできても、積乱雲の中のどの位置から雷が降りてくるかを予測するまでには至っていません。1つ前の雷の発生した位置とその次に雷が発生した位置を比べてみると、すごく接近していたり、数キロメートルも離れていたりと、まちまちです。
 雷が落ちる時点も、予測は不可能です。雲から真下に向って一直線に落雷することもあります。幾重にも枝分かれする稲妻もあれば、地表と水平の方向に伸びていく稲妻もあります。
 落雷した後になってから、稲妻を観たり雷鳴を聞いて雷を確認するという状況は、昔も今も変わりありません。

 このように予測がつかない落雷ですが、建物の中にいる限り直撃されることはなさそうです。電車や自動車の中も安全です。
 危ないのは、屋外にいる時です。特に大木の下は危険です。雷が鳴り出すと、昔から「クワバラ クワバラ」と言ってきました。これは「大きな木から離れて、桑の木のように背丈の低い木の方へ避難しなさい」という注意事項のようです。
 人間は家に入ったり身をかがめて、落雷の直撃を避ける工夫ができます。しかし、動けない植物、とりわけまわりの木々よりも高い大木は、どうしようもありません。
 屋久島の山中を歩いた際、樹齢千年を越える屋久杉の多くに、雷が落ちた跡を見てきました。
 中でも、「紀元杉」と命名された屋久杉の幹の上の部分は、落雷ですっかり欠落していました。それでも3000年間生き抜いています。落雷で焼けただれた幹の上には、ツツジやシャクナゲ、ヒノキなどの若木を擁して、樹上に独自の生態系を育んでいます。

 40億数年も昔、窒素や二酸化炭素などを主成分とする原始大気に、雷の放電が頻発して、簡単な有機物を、さらには生命体を生み出したのではないかと考えられています。
 1953年には、ミラーが原始大気に火花を放電させて、アミノ酸が生成することを実験で検証しています。
 古の人々は、稲が結実する時期に雷が多いことから、雷が稲を実らせてくれるのだと思っていたようです。稲の光=「稲光」も、稲の妻=「稲妻」も、そこから来ているようです。
 雷は、時には人の命や動植物の命を奪い、恐怖を巻き起こしてきました。その一方では、生命の誕生や生物の成長にも深く関わってきました。
 雷は、生命体を生成するエネルギー源であり、生命誕生の原動力でもあったと言えるかもしれません。

付記  江戸時代の中ごろ、雷のエネルギーを体現したような力士がいました。その名は雷電為右衛門。
     雷電は、285回対戦して254回も勝ったといいますから、勝率が9割6分2厘に達します。しかもこの戦績      は、24歳で初土俵を踏んでから45歳で引退するまでの、21年間にわたって成し遂げられています。勝率の     高さといい、人生50年と言われていた江戸時代に45歳まで現役で力士を続けたことといい、大関の地位を     16年も維持し続けたことといい、雷電は不世出の記録を残しています。

雷のエネルギー