高校入試を目前に控えて、作文の力を鍛えたいという要望が出ています。千葉県の公立高校の国語の入試問題に作文が定着したこともあるでしょう。一般入試の第2日目に作文を独自に取り入れる公立高校もありますし、推薦入試では公立、私立問わず作文を課す高校が多いからでしょう。
決められた課題に従って文章をまとめるのが作文ですから、課題に沿いながら、どのように自分の思いを述べるかが鍵となります。また、入学試験の作文課題になりそうなテーマはある程度限られますので、各種の予想問題にあわせて何回も書き慣れる必要があります。
作文と並んで、入学試験には小論文もあります。小論文は、文章や図、表などの資料が提示され、それらの資料を読み取りながら自分の考えをまとめていくものです。
公立高校の一般入試では、船橋高校や薬園台高校などで小論文を採用しています。推薦入試では、東葛飾高校のように1500字にまとめる小論文もあります。
小論文は、高校入試ではまだまだこれからという感じがしますが、大学入試ではすでに大きな位置を占めています。たとえば慶応大学は、ほとんどの学部で小論文が必須であるのみならず、44%もの高い配点比率です。国立大学では、後期の二次試験が小論文だけという学部が多くなっています。まして推薦入試であれば、小論文で合否が決まると言っても過言ではありません。
このように小論文が入学試験で重要視されている背景に何があるのでしょう。
一つには、論理的な思考力を診ることができるからです。資料に述べられている視点から問題点をあきらかにし、その問題点に対する自分の考えを論証していくという一連の作業は、学問を続ける上でとても重要です。この作業をこなすことができれば、研究テーマを見つけ、調査や実験をしながら、卒業論文などにまとめていけるわけですから。
二つには、受験生の人物を診るのに適しているからです。面接という方式もありますが、短い時間ではなかなかつかみにくいようです。「同じような返答ばかりで困ってしまう」と、ある面接担当者が嘆いていました。面接に比べて1時間から2時間もの時間をかける小論文には、受験生の考え方ばかりか人格や個性も現れます。
三つには、問題をつくる側の事情があります。限られた学習範囲内で、今までに出題されていない問題を作成するのは非常に大変です。それに対して、小論文に採用しうる資料の範囲は、無限とは言えないまでも限りありません。小論文は、過去に出題されていない新しい傾向の問題をつくりやすいのです。
論理的な思考力や人物を判断でき、過去の出題に煩わされずに作成できるとなれば、入学試験における小論文の比重は、今後ますます高まると思われます。
それでは、小論文の対策をどのようにすすめればよいのでしょう。
国語や英語のように語句や文法を覚えたり、数学のように解法を練習したり、社会や理科のように事項をまとめればよいというわけにはいきません。覚える対象が定まりませんし、解法もありません。まとめようにもあまりにも膨大な量です。つまり、旧来の受験科目別の方法では小論文の対策にはなりえません。
第一に、どの科目の学習もおろそかにしないことです。文章を読み取るために国語の学習が重要であるのは言うまでもありませんが、日本語の文章を英語で要約するという出題方式もありますし、数学の計算の仕方を文章で説明する問題もあります。理科や社会、音楽、美術、体育に関する資料も採用されています。特定の科目だけにしぼらずに、科目という枠にこだわらないことです。
第二に、自分の関心領域を広げましょう。経済学部だから経済に関する問題が出るとは限りません。医学部だから医療に限って出題されるわけではありません。日本国内の諸問題から国際関係まで、遺伝子などのミクロな科学論から宇宙などのマクロな科学論まで、環境、文化、スポーツ……あらゆることが出題の対象になりえるのですから、新聞の全ページを読みこなして視野を広げてみてはどうでしょう。
第三に、相手の主張をしっかり受け取りましょう。提示された資料で述べられている内容を把握できないことには、それに対する自分の意見が述べられません。読書のたびに、この部分では何を訴えたいのか、この部分では…と、絶えず著者の立場になってみることが必要です。また、放送を聞いて小論文にするという出題形式もありますから、読書に限らず日常生活で話を聞く時など、あらゆる機会が練習になります。
第四に、様々な問題に自分なりの考えをまとめてみましょう。大きな問題が起きると、各方面の方の意見が新聞に掲載されます。それらを読み比べてみた時に心に響くのは、その人の立場でなければ語れない独自な意見です。生活や体験をもとにした意見は、賛成や反対を超えて訴える力を持つものです。学習だけでなく、多方面に充実した毎日を送ることが大事です。
基礎的な力を蓄えた後は、志望校の出題傾向に合わせて、対策問題に取り組む段階になります。ところが、練習しようにも問題がありません。大学によって、学部によって、また試験の種類によって、出題形式が違いますし、資料の領域も異なりますから、志望校ごとの対策問題は学園で独自に作成する以外に方法はありません。長い時間をかけて、一問また一問と受験生ひとりひとりにオリジナル問題をつくっています。
幸い受験生本人の努力によって成果が出てきています。慶応大学に続いて千葉大学へと、小論文コースから難関大学へ合格が続いています。
もちろん小論文は、入学試験のためのみ有効なわけではありません。相手の考えをふまえて自分の考えを短く述べるのが小論文とすれば、人生は小論文の連続といってもいいでしょう。
世の中には問題が山積しています。地域的な問題もありますし、国際的な問題もあります。いつでもどこでも「私はこう考えるが、あなたはどう考えますか」と問われる場面が増えてきます。
今まででしたら、家とか国とか会社とか集団の考えだけで、個人の考えを述べずに済ますことができました。しかし、時代は変化しています。「家」という思考的集合体は過去のものです。国民全員が一つの考えにまとまることはありえません。会社にしても社員ひとりひとりの独創的な考えを求めてきます。
それぞれの問題について、お互いの意見を述べあい、読みあいながら、21世紀をより良き世紀にしていきたいものです。