セキツイ動物を分類する学習をしていた時のことです。「亀って両生類かと思ってた」という話から「亀が爬虫類なら、水中でどうやって呼吸するのだろう」「亀はほんとうに長生きするのだろうか」など、亀について様々な疑問が出ました。
 亀が長生きである例として「マリオンのゾウガメ」があります。1766年にフランスの探検家マリオンがモーリシャス島に運びこんだアルダズラゾウガメは、1918年までなんと152年間も飼育されました。マリオンが捕らえた時にはすでにかなり成長していましたから、仮に30歳ぐらいとしますと、180年も長生きをしたことになります。
 その他にカロリナハコガメで138年間、ヨーロッパヌマガメで120年間という記録もあります。個体としての長寿記録以外に、亀類全体としてはどうなのでしょう。
 北アメリカでの調査によりますと、113種類の亀の平均寿命は15年でした。同じ爬虫類のトカゲの7年やへびの3年よりは長いものの、ワニの24年よりも短くなっています。亀の平均寿命は30〜50年ぐらいではないかという推測もあります。
 いずれにしても他の動物に比べて亀の平均寿命がずばぬけて長いわけではありません。それではなぜ亀は長寿の象徴と考えられてきたのでしょうか。


 徳島県の日和佐町や鹿児島県の屋久島などには、夏になるとアカウミガメが産卵のために上陸してきます。産卵から二ヶ月を過ぎると卵が孵化します。子亀の大きさは約4センチ、体重は20グラムぐらいです。この子亀が約100センチで100キログラムの親亀になって再び上陸するまでには、10年から30年もかかると言われています。他の動物に比べて非常に長くなっています。
 成熟するまでに長期間かかるとすれば、その後の生存する期間も長いだろうと考えられたのでしょう。


 次に、「歩みがのろい」と思われていることも、亀の長寿観に結びついているのかもしれません。
 産卵のために砂浜に上がってきたアカウミガメは、一分間に5〜7メートル進むのがやっとです。重い甲羅を背負っているのですから、無理もありません。ゆっくりゆっくり歩くカメの動きを見ていた古代の人々は、気が長く感じたことでしょう。もっとも、「歩みがのろい」のは陸上の話であって、ウミガメは時速32メートルの速さで泳ぎます。25メートルのプールならわずか3秒で泳ぎ切る速さです。カメが海中ではすばやく泳ぐことを知っていたら、古代の人々の見方も違っていたかもしれません。


 第三に、亀が変温動物であることも関係ありそうです。
 まわりの温度が変われば、亀の体温も変わってしまいます。そこで気温が下がる冬を迎えると、水の底やどろの中で冬眠しなければなりません。冬眠している間、亀の心臓は一分間に一回ないし、二分間に一回動くだけです。寝ても覚めてもせわしなく動き続ける人間に比べて、心臓の負担が非常に少なくなっています。しかも肺呼吸をしなくても皮膚呼吸だけで必要な酸素をまかなえます。水温が15度ぐらいになると呼吸をしに水面に浮かび上がります。水温が20度を越えると、えさを探したり陸上に上がったりします。
 長い冬眠、そして冬眠からの再生、夏になって気温が高くなると今度は夏眠、という亀の生活を観察していた古代の人々は、「亀は長生きするよ」と思ったのでしょう。


 第四に、体の大きさも長生きに関係していそうです。
 哺乳類の場合、最大寿命は、象の77年や馬の62年に対して、ハツカネズミは2年です。鳥類の場合、ダチョウの50年に対してハチドリは5年です。いずれも体の大きい方が長生きしてます。亀の場合も100年を越す長寿記録を残しているゾウガメは、甲羅の長さが1.3メートルを超え、体重も200キログラム以上です。そのうちのガラパゴス諸島(スペイン語で亀の意味)に済むガラパゴスゾウガメは、半年ぐらい絶食に絶えることができます。えさが豊富な期間は栄養をたくさん取り込んで成長し、えさが乏しい期間は体内に蓄積してきた分でじっと過ごします。栄養分をたくさん蓄えられるぐらいに大きな体があったからこそ、南アメリカ大陸から約千キロも離れたガラパゴス諸島に渡ることができ、厳しい自然環境にも適応できたのでしょう。


 最後に、亀ほど長く同じ姿を保っている種は他に類を見ません。
 今から約2億8000万年前に肺呼吸をする爬虫類が誕生します。約2億3000万年前には恐竜も誕生しましたが、約6500万年前に姿を消してしまいます。恐竜から少し遅れて約2億2000万年前に、堅固な甲羅を持つトリアソケリスがあらわれました。これが亀の先祖です。それ以来ずっと甲羅を背負う形をモデルチェンジしないで現在に至っています。人類の誕生を500万年前としますと、人類の実に約44倍もの長きに渡り、亀という種は生き続けたことになります。
 他の動物にはない甲羅が、外敵や自然環境の変化から2億年以上も亀を守ってくれたのです。


 人類が甲羅を身につけることは不可能でしょうが、甲羅に変わる様々な技術によって外敵を防ぐこともできました。衣食住もまかなえるようになりました。亀にあって人類に欠けているものと言えば、一つは、環境の変化に合わせて生活パターンを柔軟に変えていく生き方です。冬の間休息を続けたり、夏は昼寝の時間を除いた朝と宵に活動するだけというように、時計に追われない過ごし方ができれば、人生はずいぶん長くなるでしょう。
 もうひとつ亀に見習うべきは、呼吸です。吸い込んだ空気をできるだけ長い時間をかけて吐き続ければ、限られた酸素を全身で無駄なく活用できます。呼吸の回数を減らしても体を維持できれば、この世に生を受けて以来休むことなく動き続けている肺や心臓などはずいぶん楽になり、その分健康で長生きすることも可能になるでしょう。

    参考資料    『カメのくらし』 あかね書房                
              『自然おもしろ大辞典』 リーダースダイジェスト
              『動物たちの地球』 朝日新聞社
              『ツルはなぜ一本足で眠るのか』 草思社
              『動物たちのふしぎな話』 日本実業出版社
              『動物の超能力』 KKベストセラー
              『チョウは零下196度でも生きられる』 PHP研究所


亀は万年