20世紀は、科学の世紀でした。科学は、目覚しく進歩し、生活をとても便利にしてくれました。と
同時に、科学は万能ではなく、限界があることも明らかになりました。
たとえばスプレーや冷蔵庫に使われてきたフロンガスは、地球を囲むオゾン層を破壊し、あらゆ
る生命を危険に陥れています。石油化学や原子力などの最先端の科学が、凶器のように思える
ことも少なくありません。
専門分野がますます細分化され、それぞれの分野ごとに著しく進歩したとはいえ、社会全体を
捉える視点から遊離したような進歩は、むしろ地球全体にとって不幸を招きかねません。細かく「
科」に分けて競い合う科学とは別の、新たな視点が求められています。
ひとりひとりの人間が、自然や社会、宇宙までのあらゆる環境とどのように結びついているのか
を問いながら学んでいく、総学の世紀が21世紀です。
20世紀は、民族の世紀でもありました。民族自決のスローガンの下、多くの民族が国家として
自立を果たしました。一方では朝鮮民族やユダヤ民族のように、民族性を抹殺されるような悲劇
もありました。
虐げられてきた民族が抑圧をはねかえす行動は、確かに正義の戦いでした。ただ解放された
民族が多数派を占めると、今度は別の少数派の民族を抑圧しかねません。コソボやパレスチナ
がその例です。
これまでは民族の旗を翻すことが避けられませんでしたが、民族という旗にとらわれる限り、無
用な差別や対立は繰り返されるばかりです。
人間が人間である以外に、どうして種別する必要があるのでしょう。人種とか民族という概念で
種別する分類学的な視点は、過去の遺物にするべきです。
絶えず人類全体の中で自分自身の立場や役割を思考する、人類の世紀が21世紀です。
20世紀は、国家の世紀とも言えます。南極大陸を除いたすべての陸地は、いずれかの国家が
支配することになりました。その境界をめぐる争いは、数々の戦争を引き起こし、ついには2回の
世界大戦にまで至り、数千万の人を死に追いやりました。
人々の暮らしを保護するはずの国家が、人々の暮らしを無残にも打ち壊し、生命を公然と奪う
のであれば、国家という枠にとらわれる意味はあるのでしょうか。
自分の生命は、自分自身に責任があります。学問も、同じです。国家に生命を捧げたり、国家
のために学問を犠牲にするのは、過去のことにしたいものです。
鳥は、北へ南へ東へ西へ自由に飛び交っています。自然は一体ですし、地球はひとつです。国
家というしがらみから抜け出し、大自然の一員となる、地球の世紀が21世紀です。
世紀の区切りにあたり、開進学園の16年間も検証してみます。
学園の第一の理念は、自学です。教えすぎないようにしたい、時間はかかっても自分自身の力
で学ぶ喜びをつかんでもらいたいという願いは、少しずつ実を結びつつあります。高校3年の国語
・英語・社会の部で、千葉県第1位、全国第5位の成績に達した塾生もいます。
第二の理念は、挑戦です。夢をたくさん描き出し、それらの夢を実現させるための具体的な目
標を自分で立ててほしいのです。押しつけたり、不安につけ込んだりせずに、寄り添いながらも見
守るだけの方が、自覚したときにより大きく飛躍するはずです。5年間不登校を続けた後、高校
はなんと無欠席、そして大学進学を果たした塾生もいます。
第三の理念は、不屈です。どんなことにせよ、すべてが順調に進むはずはありません。思うよう
に学習が進まなかったり、成績が伸びないどころか下がってしまうこともあります。そのような事
態に耐えることができれば、いずれ何らかの形で報われる時も来るのではないでしょうか。自分
なりのペースで学び続ける塾生たちは、学問の道を着実に歩んでいます。
自学・挑戦・不屈の理念を21世紀の中でさらに具体化させるために、学園は3つの計画を進め
ます。
第一に、読書環境を整備します。日毎に増える新着図書を収納するスペースが、数年前から
限界に達していました。人類の英知の結晶たる図書を活用しやすい環境は、学習に不可欠です
。そこで書棚に囲まれた学習室を作ることにしました。調べたいときにすぐに調べられるように、
読みたいときにすぐに読むことができるように、図書を配置します。蔵書の充実にも努めていきま
す。
第二に、作文・小論文コースを新設します。自分を豊かに表現できるようになってほしいと願い
続けて、表現学習を10年以上続けて着ました。論説、随筆、物語、詩、どどいつ、川柳・・・と様
々な形態をとり、いろいろな分野を対象としきた月1回の表現学習を定着させながら、それとは別
に作文・小論文コースを設けます。今後、入学試験などで作文や小論文の比重は非常に高まる
と思われます。これまで行ってきた大学入試小論文個別対策を上回る成果を目指していきます。
第三に、塾舎を新築します。ポトスやカラジウムなど植物に囲まれている今までの学習室を、木
のぬくもりの中に再現します。居るだけでも心が休まり、頭が冴え渡るような塾舎にしたいと考え
ています。17畳半の広間や多目的室も備え、様々な学習活動を繰り広げられるようにします。新
建材や壁紙を使用しないなど健康面にも留意し、雨水を貯めて利用するなど自然の恵みを生か
した塾舎は、2001年1月に着工します。
18世紀から19世紀にかけての江戸時代には、日本各地に私塾が興り、学問や文化の花々が
咲きそろっていました。それから百数十年を経て、私塾の灯火を点し続けることができればとても
光栄です。
小さいながらも、21世紀を通して一輪の花を咲かせ続けます。これからの100年間も、どうぞ
よろしくお願いいたします。